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FileNo. 003
 
建物等の移転については、公共用地の取得に伴う損失補償基準要綱(昭和37年、閣議決定)第28条に規定があり、現在ある建物等を「通常妥当と認められる移転先に、通常妥当と認められる移転方法によって移転するのに要する費用を補償するものとする。」と規定されています。この規定に基づく「移転先」と「移転方法」の判断については、当該建物等の所有者の主観的な意向にとらわれることなく、社会通念上、普通一般人が移転すると想定される合理的な移転方法の判断を行い、適正な移転料を算出しそれが補償されることとなります。
ここではその『補償』の考え方をより大勢の皆様に理解していただく為に、当社の事例を紹介しそれを出来る限りわかりやすい表現でまとめております。

今回の事例は、化学製品を製造する会社の工場です。敷地は工場施設と厚生施設の2つに分かれています。工場施設には2棟の工場と2棟の倉庫があります。厚生施設は、緑地帯・テニスコート・バーベキュー場等があります。本件で支障になるのは工場施設です。尚、厚生施設は本社工場(車で約5分)の従業員も利用に訪れます。



1. 対象物件の概要

敷地概要

  • 敷地面積 約 8,900u 
     工場施設敷地 約 4,400u
     厚生施設敷地 約 4,500u
  • 買収される面積 約 4,400u
  • 残る面積 約 4,500u
  • 買収される割合 約 49%
  • 田畑が散在する農業地域で近隣に家屋もなく工場立地に適する
  • 建築基準法の用途地域制限市街化調整区域
  • 建物の構造用途
    A棟      軽量鉄骨造平家建倉庫
    B棟     軽量鉄骨造平家建事務所倉庫
    C棟・ D棟 重量鉄骨造平家建製造工場
  • 駐車場の収容台数 14台
  • 製品の販売先 大手化学製品メ−カ−の専用工場であるため、製品は全てメ−カ−の検査を受け出荷される。
  • 製品の製造工程 8機の機械を使用しそれぞれの製品が作られている。
  • 製品等の搬出入の状況  工場⇔倉庫間の製品及び材料等の搬出入には4tトラックを使用し、積み降ろしにはフォ−クリフトを利用している。
 
2. 検討のポイント

  1. 敷地は工場施設と厚生施設の2つに分かれ、機能的に分離可能です。尚、厚生施設は本社工場の従業員も利用に訪れている状況から判断しても分離可能です。よって当該残地は物件の概要に記した通り、工場立地には十分適しており工場の残地内移転が可能か検討します。
  2. B棟は倉庫と事務所に分かれており機能的に分離可能です。
  3. 通常、市街化調整区域では建築許可になりませんが、公共事業により移転を余儀なくされる場合には緩和規定があります。今回のケ−スを管轄行政機関に確認した所、建築許可になるとの回答を得られたため建築可能であると判断しました。
  4. 建物移転後に製品等の搬出入のための4tトラックの往来が可能か検討します。
  5. 建物移転後に従前(14台)の駐車場が確保できるか検討します。
  6. 条例(当該自治体)に定められた敷地に対する緑地の割合が残地で確保できるかを検討します。

<第一案>
敷地内の4棟ある建物のうち、C棟、D棟の工場2棟とB棟の事務所部分を従前と同じ形状で残地に建築し、B棟の倉庫部分とA棟倉庫を別の敷地へ建築する案です。

<利点>

  • 再配置される工場が同形状で建築できるため、機能上製造工程に変更が生じない。

<問題点>

  • 現在の敷地形状と移転先の敷地形状が異なるため現在と同じ利用形態はとれない。
  • 出入口が1ヶ所しかないため、工事期間中は工事用車輛と製品等の搬出入車輌(4tトラック)が交差し危険である。
  • 工場と倉庫が離れるので、作業効率が悪くなる。
  • 工事期間中は駐車台数が11台減少する。
  • 移転後は駐車台数が3台減少する。

<第二案>
C棟、D棟の工場棟を従前と同形状で建築し、A棟・B棟の平家倉庫を合棟して2階建で建築する案です。2階建倉庫であるためフォークリフトの乗入可能なエレベーターが必要となります。

<利点>

  • 再配置される工場が同形状で建築できるため機能上製造工程に変更が生じない。

<問題点>

  • 現在の敷地形状と移転先の敷地形状が異なるため現在と同じ利用形態はとれない。
  • 出入口が1ヶ所しかないため、工事期間中は、工事用車輛と製品等の搬出入車輌(4tトラック)が交差し危険である。
  • エレベーターが必要になり第一案より移転費用が割高になる。
  • 工事期間中は駐車台数が11台減少する。
  • 移転後は駐車台数が3台減少する。
  • 条例で定めた緑地面積が確保できない。

<第三案>
A棟・B棟の倉庫棟と、C棟・D棟の工場棟をそれぞれ合棟して2階建で建築する案です。第二案と同様にフォークリフトの乗入可能なエレベーターが必要となります。

<利点>

  • 移転後は従前の駐車台数が確保できる。

<問題点>

  • 現在の敷地形状と移転先の敷地形状が異なるため現在と同じ使用形態はとれない。
  • 出入口が1ヶ所しかないため、工事期間中は、工事用車輛と製品等の搬出入車輌(4tトラック)が交差し危険である。
  • エレベーターが2機必要になり移転費用が最も割高になる。
  • 工事期間中は駐車台数が11台減少する。
4.まとめ
第一案、第二案、第三案の工場の残地への移転は、従前の機能回復が図れないため、採用できません。よって、工場を別の敷地に移転させることにより、厚生施設は現状のまま使用することに致しました。
工場で作られる製品は全てメ−カ−の検査を受け出荷されています。新工場ですぐに製品を作ってもこの検査に合格しなければ出荷が出来ません。そこで試作品が検査に合格するまでの準備期間が必要になります。この準備期間の補償は製造機械を移設(今の機械をそのまま使用)する場合と、新設(今の機械を全て新品に取り替える)する場合とで異なります。ここでは、原材料費、人件費、水道光熱費等が該当する補償費用になります。
・製造機械を移設する場合
既存の工場から移転先の工場に機械を移動する△△日間は工場の稼働ができなくなり、営業休止補償が発生します。機械稼働から検査に合格するまでの○○日間が準備期間(試運転⇔試作品)となり、その期間に発生する費用が補償されることになります。又、この補償とは別に、この期間は収益が得られない事から、準備期間中の収益減も補償対象となります。

・製造機械を新設する場合
移転先工場に新品の機械を設置する事で既存の工場がそのまま使用可能となり、同時に操業することが出来ます。上記と同様に機械稼働から検査に合格するまでの○○日間が準備期間(試運転⇔試作品)となり、その期間に発生する費用が補償されることになりますが、既存の工場では準備期間中の収益減はありません。 尚、機械を新品に取り替える場合は、今まで使用した機械の償却分を算出し、新品機械の補償額より控除(減耗)する事になります。

以上の事により本件では補償費が低額になる「移設」を認定しました

厚生施設について
厚生施設内には休憩所、便所等の施設はなく、その利用者は工場の施設を利用しております。本件は構外に工場を移転させるため共用施設がなくなり、その機能を回復させるため共用施設を新設で補償しました。
−END−

皆様方が補償というものをお考えになられる時、その『従前の機能回復』『従前の生活再建』・・・は今後ますます複雑多様化してまいります。これからも共に学びましょう。





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